歩行は伝統行事

日本の文化には、昔から歩くことを大切にする習慣がありました。

たとえば江戸時代、多くの人は徒歩で移動していました。参勤交代では全国の大名の行列が何百キロもの道のりを歩きます。庶民もまた、お伊勢参りなどの巡礼で長い距離を歩きました。旅とは、歩くことだったのです。

『幸福感とは身体感覚である: 4つのホルモンを増やして体の中から幸せになる』(著:山口創/草思社)

さらに日本には、歩くことを精神と結びつける文化もあります。

禅の修行では「経行(きんひん)」と呼ばれる歩行瞑想があります。ゆっくりと歩きながら呼吸を整え、心を落ち着ける修行です。

現代の神経科学から見ると、この習慣はとても理にかなっています。

歩くという行動は、単なる移動ではありません。一定のリズムで身体を動かすことで、脳内のセロトニン神経が活性化するのです。

歩行は、代表的なリズム運動です。一定のテンポで足を運び、呼吸を整えながら前に進む。

この単純な動作が、脳の安定を作るセロトニン神経を刺激します。

スタンフォード大学の研究では、歩いているときは座っているときよりも創造的なアイデアが約60%多く生まれることが報告されています。まさに「頭が柔らかくなる」のです。それは歩行が「固体の身体」になるのを防ぎ、歩くことで「液体の身体」へと動き出すからに他なりません。