マイナスからの再スタートでも前進できる

この話を聞いて、「三浦は若い頃から鍛えていたからできたのだろう」「よほど厳しいトレーニングに取り組んだのだろう」と思う方も多いだろう。

もちろん、若い頃に得た経験値や知見はプラスになっている。だが、少なくとも65歳の頃の私は、体力、筋力ともに平均以下だった。むしろ、メタボで身体は重く、動きも鈍くなり、気力も落ちていた。マイナスからの再スタートだった。

『諦めない心、ゆだねる勇気 老いに親しむレシピ』(著:三浦雄一郎、三浦豪太/主婦と生活社)

しかも、トレーナーをつけて、アスリートのような厳しいトレーニングを欠かさずやっていたわけでもない。管理栄養士の指導のもとで、栄養価が計算された食事を心がけていたのでもない。「今日は気乗りしないな」と運動をサボることもよくあった。

焼肉やステーキをたらふく食べて、「こりゃ食べすぎた」とベルトを緩めたことは数知れない。そんな私でも、なんとかかんとか、前進を重ねることで三度のエベレスト登頂を成し遂げることができたのだ。

私は87歳のときに頸髄(けいずい)硬膜外血腫になり、下半身が痺(しび)れ、感覚が鈍くなり、一時は起き上がることもできなかった。そんな絶望的な状態でも、「目標を立てる」ということは65歳のときと同じだった。

たしかに、60代、70代のときとは状況は異なる。しかし、子どもたちや周りの人たちにさまざまなことをゆだねることで、また、再スタートすることができた。