静かな空間が一瞬で笑いに包まれた
施設の日常には、笑い声が響く時間も少なくありません。
あるとき、椅子に座ったままできるゲーム大会を開きました。普段は無口な方が、そのときは声を上げて大笑いし、他の利用者や職員もつられて笑いました。静かな空間が一瞬で笑いに包まれ、そこにいる全員が心を通わせる瞬間がありました。
その方は後日、「あんなに笑ったのは何年ぶりだろう」と語ってくださいました。介護の現場は決して「暗くてつらい場所」ではなく、笑いに満ちた日常の場でもあるのです。笑うことが心身に与える効果は科学的にも証明されていますが、それ以上に「誰かと一緒に笑った」という経験自体が、人の生きる力を支えるのだと実感しました。
さらに忘れられないのは、家族からの言葉です。
ある利用者の娘さんが私に「母がここで笑って過ごしていると聞きました。本当にありがとうございます」と声をかけてくださいました。その瞬間、胸の奥に熱いものが込み上げました。介護は本人だけでなく、その家族の人生にも深く関わっています。
ご家族が安心できること、介護を託せることで罪悪感から解放されること、それによって家庭全体が落ち着きを取り戻すこと――それもまた介護の大切な成果です。
こうして振り返ると、介護現場は「身体介助ばかり」というイメージからはかけ離れていることがわかります。確かに大変な場面はあります。夜勤が続くと体力的に疲れることもあり、思うように業務が進まず悩む日もあります。しかしその一方で、人の暮らしをともにし、笑いや喜びを分かち合い、人生の一部に寄り添える瞬間が数え切れないほどあるのです。
※本稿は、『未来をつくる介護』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
『未来をつくる介護』(著:森山穂貴/クロスメディア・パブリッシング)
本書ではアメリカのCCRC(生涯居住型コミュニティ)を参考に、日本の実情に合わせた独自モデルを提唱。
「課題先進国」から「解決先進国」へと転換する可能性を示します。




