裏切った父親は、地獄に堕ちるだろう

次の日、葬儀屋さんを呼んで葬式の打ち合わせをしました。葬儀の日取りを決めたあと「それで、いくらぐらいかかるんですか?」と聞くと、「ええがな、金のこたぁ」と言います。なんだか良心的な葬儀屋さんだなあと思ったのですが、親戚がいないところで「せぇで、予算はなんぼ?」と聞きます。親戚がいたからお金の話をしなかっただけでした。葬儀料金は50万円、60万円、70万円の3コースがあると言うので、70万円のコースを頼むと葬儀屋さんは急にニコニコして、霊柩車はキャデラックにしますと言いました。

次の日葬儀屋さんたちが来て、ボロボロの町営住宅には不釣り合いなデコレーションをほどこし始めました。お地蔵さんが立ち、小さな水車が回り、その周りが花で飾られました。それを見ていた伯母さんたちは、不安そうな顔をしていました。費用を負担させられると思っていたようなので、「葬儀費用は、ぼくが出します」と言うと安心したようでした。

葬儀の日、近所の人が集まり、東京から会社の人たちも来てくれました。泣いている人は誰もいなかったのですが、1人だけ泣いているお婆さんがいました。弟が「あれ、テレビに出てたお婆さんやで」と言いました。あの「ルックルックこんにちは」に父親と出て、娘さんに「ええ年こいて!」と言われたお婆さんです。お婆さんが来てくれたことが、せめてものはなむけになりました。

葬儀が終わってそのお婆さんが、2人の貯金通帳があるはずだと言います。2人で旅行に行こうと、毎月2,500円ずつ出し合って、それを父親が貯金していたそうです。探してみると、その貯金通帳が出て来ましたが、残金はゼロでした。父親が降ろして全部使っていたようです。その通帳をお婆さんに見せると、とてもガッカリした様子でした。自分のために涙を流してくれるお婆さんまで裏切った父親は、地獄に堕ちるだろうと弟と話していました。

こうして母親は30歳で、義母は68歳で、父親は71歳でろくでもない死に方をしました。そしてぼくは72歳になりました。ぼくはどんな死に方をするのでしょうか。
 

※次回配信は2月11日(木)の予定です

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